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zoom RSS 岳物語 / 続 岳物語 (椎名誠)

<<   作成日時 : 2014/01/23 10:06   >>

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満足度5 ★★★★★

集英社文庫
初出版 1985(正編)、1986年(続編)
読んだ回数 3回


集英社文庫−裏表紙の紹介文

山登りの好きな両親が山岳の岳から名付けた、シーナ家の長男・岳少年。坊主頭でプロレス技もスルドクきまり、ケンカはめっぽう強い。自分の小遣いで道具を揃え、身もココロもすっかり釣りに奪われてる元気な小学生。旅から帰って出会う息子の成長に目をみはり、悲喜こもごもの思いでそれをみつめる「おとう」…。これはショーネンがまだチチを見棄てていない頃の美しい親子の物語。著者初の明るい私小説。

シーナ家の長男・岳少年はオトコの自立の季節を迎えている。父子の濃密で優しい時代は終わろうとしていた。ある日、エキサイティングなプロレスごっこで、ついに岳は父の体を持ち上げたのだ。ローバイしつつも、息子の成長にひとりうなづくシーナおとう。カゲキな親子に新しく始まった、キビシクも温かい男の友情物語。


感想、みたいなもの

椎名誠の著作の中で、もしかしたら、最も有名かもしれない作品。

私の分類の中では「私小説系」に属する作品で、「哀愁の町に霧が降るのだ」に続く第二弾ということになるのですが、「哀愁の町」でも書いたように椎名誠の「私小説系」には2系統あって、「哀愁の町」を椎名誠の青春シリーズだとすれば、「岳物語」は、結婚後の家庭のあれこれを題材とした家族シリーズの第一弾ということになります。

ただ、最近思うのは、「哀愁の町」から続くシリーズは、椎名誠がやがて独立し、「本の雑誌社」を立ち上げる話に繋がり、仕事というカテゴリーを形成していくので、子供の頃から「哀愁の町」までが青春シリーズで、以後は、仕事シリーズと家族シリーズに分かれていくというのが正確な分類になるかもしれません。

いずれにしても、「岳物語」は、椎名誠が結婚し、生まれた長男の「岳くん」について書いた小説ということで、家族シリーズの第一弾であることは間違いありません。

−−−−−

以前、エッセイのバカバカしさと、テーマを持った小説としての深みが、ほどよくミックスされた椎名誠の「私小説系作品」と書いたことがありますが、「岳物語シリーズ」もまさにそんな感じです。

一応、子育て物語と言っても良いと思いますが、「椎名誠が子育てをするとこうなるノダ」という感じで、教育論的な堅苦しさは全く感じません。読んでいて、「親子の物語」と言うより、父と息子の「男同士の物語」というのがピッタリだと思いました。

私は独身で子育ての経験はありませんから、実感を持って読み進めることはできませんが、もし子供、それも男の子を育てるとしたら、こんな風にできたらいいなあと思わせる内容でした。

私自身、小学生の頃は、勉強もせずに外で遊びまわり、近くの畑のトウモロコシを取って来て怒られたり、担任の先生による通信簿のコメントも「ケンカばかり」などと書かれたりしたので、岳少年とは似た感じだったと思います。

椎名誠がそうしたように、私も両親から「勉強しろ」と言われたことはなかったので、そういう親は珍しくはないと思いますが、さすがにケンカした後、父親に「上級生だろうが、かまわないから殴ってしまえ」などとは言われたことはないので、そんなところは、あまりにも椎名誠らしくて、思わず笑ってしまいました。

この本が書かれたのは、今から30年近く前ですが、その頃でも、このような感じで息子に接していた親はあまりいなかっただろうと思いますし、今ではほとんど絶滅しているような気がします。

−−−−−

読み方によっては、「教育論」的な雰囲気を感じるかもしれませんが、そのような堅苦しいことを椎名誠が考えて書いたとはとても思えません。「椎名誠的生き方」で子育てをするとどうなるか、それが何とも「椎名誠」らしいので、読んでいて楽しくもあり、共感を呼ぶということなのです。

この本の感想で、「なんか特定の価値観をやんわり押しつけられたような・・・。」と書いていたブログがありましたが、そういう印象を抱くということが不思議でなりません。

椎名誠も良かれと思って行動はしていますが、自分の子供の頃を思い出したり、岳少年の思わぬ反応を見せられ、自分でも悩み、時に反省しながら書いているのです。後で振り返って、これが正しかったというのではなく、まさに現在進行形で書いたもので、全て正しいなんていう雰囲気はまるでないのにも関わらずです。

まあ、そういう風に思う人は、元々、椎名誠は合わないタイプの人だと思うので、綺麗サッパリ、二度と椎名誠に近づかない方が良いと思います。

−−−−−



「岳物語」「続 岳物語」は、後に、正続合わせて一冊にした「定本」が出版されています。

この定本は、基本的には「てにをは」を直すといった基本的な校正だけのようですが、ネットミュージアム 『椎名誠 旅する文学館』によれば、最初に出版されたものから、正続それぞれ1編が削除されているとのことです。

削除されたのは、正編からは「インドのラッパ」、そして続編からは「冬の椿」です。削除した理由は、雑誌に連載していた関係で、「岳物語」と直接関係のない話が穴埋め的に混ざってしまったからのようですが、二編とも味のある話で、私は削除には反対です。

「岳物語」は、父親シーナの話であるとともに、岳少年と同じくらいの頃(小学校六年)に父親を亡くした、少年シーナの回想の場面も描かれているのですが、「冬の椿」はそれに属する話で、心にしみじみと広がってくる話なので、わざわざ外すことはなかったと思います。

「インドのラッパ」にしても、椎名誠の旅の話が中心にはなっていますが、日本を離れて、ふと息子を思い出す父親の気持ちが描かれていて、全く関係のない話ではありません。

私としては、これから読む人も、「定本」ではなく、正続そのままのものを読むことをお薦めします。(とは言え、定本を入手する方が一般的ではないので、いらぬ心配ですが…。)

ちなみに私が「定本」を購入したのは、「定本」の後書きに、二十歳になった「岳青年」が、「岳物語」について書いたエッセイが載っているからでした。

椎名誠による「定本」の後書きには、自分のことを書かれて、子供心に傷ついた「岳少年」が、ある日、椎名誠に「二度と自分のことを書いてくれるな」と怒りまくる話が書かれています。この話は、定本で読む前にどこかで目にしていた記憶があるのですが、元はここだったようです。

「岳物語」に書かれた内容自体は、とりたてて怒るようなものではないと思いますが、学校などで、「岳ちゃん、××したんだって?」とか、当たり障りのないことでも、そういうのって言われるとイヤな気持ちはわかります。また、大人になってからも、子供の時のことを他人が知っているというのは、気分が良くないというのもわかります。

岳青年は、やがて日本を離れ、アメリカへ移住してしまうのですが、日本で「椎名誠の息子」として生きていくのがイヤだったのではないでしょうか。とまあ、その当時、「岳少年」がどう思っていたのか、今、どう思っているのか、正直な気持ちが綴られています。合わせて読むと、岳物語の世界が、また少し広がると思います。

そんな「岳少年」も今では立派な大人。結婚して子供(椎名誠にとっては孫)もいるようで、この孫との話を綴った話が「大きな約束」「続・大きな約束」として出版されています。

2012年にようやく文庫が出版されたものの、もう一度「岳物語」を読んでから読もうと思っていて、結局、「積読」になっていますが、岳物語のさらなる続編としてどんな物語になっているのか読むのが楽しみです。

−−−−−−−−−−−−−−−



文庫の表紙は、各章の扉のイラストを含め、椎名誠の友人、沢野ひとしによるものです。

正編(左)が岳少年がのめり込んでいった「釣り」をテーマにし、続編(右)は、カヌーイストの野田知佑に教えられたカヌーと、カヌー犬の「犬ガク」を描いたものとなっています。



単行本の表紙も、文庫と同様、正編が釣り、続編がカヌーの表紙で、この絵もおそらく沢野ひとしによるものだと思いますが、何となく少し違う気もします。いずれにしても、単行本、文庫ともにシンプルで、落ち着いた雰囲気の表紙となっています。

岳物語は、内容的にはハチャメチャなところもあるのですが、この落ち着いた雰囲気は、読み進める中で時折感じる「しみじみ感」といった静かな想いに繋がり、私には心地良いものでした。



「定本」の表紙は、「親子」を強調した?イメージですが、これも悪くないと思います。




左は集英社文庫「ナツイチ2011」の時のスペシャルカバーで、イメージキャラクターのみつばちが使われていました。みつばち親子が山登りをしているところですが、良く考えると、「山登りの好きな両親が山岳の岳から名付けた」はずなのに、一緒に山登りをする話はありませんでした。その後、一緒に登山をする機会はあったのでしょうか?

右はネットを徘徊して「MJイラストレーションズ日記」でみつけました。描いているのはイラストレーターの坂内拓(ばんない たく)氏。

坂内氏はイラストレーターの峰岸達氏が主宰するMJイラストレーターズの13期生で、課題作品として提出したもののようです。ちなみに峰岸達氏は、「哀愁の町に霧が降るのだ」の単行本の表紙を描いていた方でした。

ここには、その他の塾生の方の表紙作品が多数アップされていますが、どれも個性溢れる作品ばかりで、読んでいなくても本の内容が伝わってきます。私はこういう表紙が好きなんですよね。


印象に残った言葉

前作『岳物語』がちょっと思わぬところで思わぬ評価というか判断のされかたをして、すこしあせってしまった。子育て、教育をベースにした物語というふうに一部でとられてしまったのだ。

このモノガタリは、そんなものじゃなくて、オヤバカをベースにした男たちの友情物語のつもりである。ぼくと犬ガク、ぼくとヒト岳、ヒト岳と犬ガク、そして岳と野田知佑さん、野田さんと犬ガク、岳とミッタン、トッタンたち、そしてその周辺にいるすべてのやさしい人間たちとの“友情”を書いたつもり――なのである。


−−−−−

これは「続 岳物語」のあとがきとして書かれたものです。

最初に、「椎名誠の著作の中で、もしかしたら、最も有名かもしれない作品」と書きましたが、この作品は、国語の教科書に載ったり、試験問題の材料になったりしたことがあるからです。

このような評価は椎名誠の予期せぬものだったわけですが、そうは言っても、確かに「子育て論」的な読み方ができないわけではありませんし、そのおかげで、「岳物語」が広く読まれたこともまた事実です。

その辺のことも分かった上で、椎名誠としては、やっぱりひと言、「そんな(偉そうな)つもりじゃないんだよ。」と言っておきたかったのだと思います。謙遜とかではなく、本音として。

「こんなことになってマイッタ、マイッタ」とアセッている椎名誠の姿が目に浮かぶようです。



※ブログ内の関連記事(椎名誠)

椎名誠 / 著作リスト

(ブックレビュー / 私小説系)
哀愁の町に霧が降るのだ
岳物語 / 続 岳物語

※関連サイト

ネットミュージアム 『椎名誠 旅する文学館』

(旅する文学館内の関連記事)
岳物語 (思えばいっぱい書いてきた)
続 岳物語 (思えばいっぱい書いてきた)

『岳物語』その1 (椎名誠の仕事 聞き手 目黒考二)
『岳物語』その2 (椎名誠の仕事 聞き手 目黒考二)
『岳物語』その3 (椎名誠の仕事 聞き手 目黒考二)

峰岸達&MJイラストレーションズ
東京イラストレーターズソサエティ (TIS) 峰岸達
BANNAITAKU ILLUSTRATION 坂内拓 イラストレーション


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