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zoom RSS 隠蔽捜査 (今野 敏)

<<   作成日時 : 2014/01/24 10:20   >>

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満足度5 ★★★★★

新潮文庫
初出版 2005年
読んだ回数 1回









新潮文庫−裏表紙の紹介文

竜崎伸也は、警察官僚である。現在は警察庁長官官房でマスコミ対策を担っている。その朴念仁ぶりに、周囲は〈変人〉という称号を与えた。だが彼はこう考えていた。エリートは、国家を守るため、身を捧げるべきだ。私はそれに従って生きているにすぎない、と。組織を揺るがす連続殺人事件に、竜崎は真正面から対決してゆく。警察小説の歴史を変えた、吉川英治文学新人賞受賞作。


感想、みたいなもの

今野敏の人気シリーズのひとつ、「隠蔽捜査」の第一弾。

現在の今野敏を代表するシリーズといえば、やはり「隠蔽捜査」ということで、早く読みたいとは思っていましたが、今野敏は著作がとても多いので、「最初から順番に読む」私としては、遅読も手伝って、まだこのシリーズは読んだことがありませんでした。

しかし、堂場瞬一の記事でも何度か書いている「いつもの理由」で、今回、「隠蔽捜査シリーズ」を読み始めることになりました。

いつもの理由、そう、1月から「隠蔽捜査」がTVの連続ドラマが始まることを知ったのです。

単発ものであれば、一時やり過ごせば、事なきを得ることもできますが、1クールの連ドラだと、番宣や、文庫の帯や、タイアップした特別表紙など、敵は、あの手この手で攻めてきます。自分でキャラのイメージを構築される前にこれをされると、ドラマのイメージを植え付けられてしまうので、本読みには良いことはありません。

というわけで、ドラマ化を知り、慌てて読んだ「隠蔽捜査」第一弾でしたが、かなり面白くて、あっという間に読み終えてしまいました。

−−−−−


人物相関図(新潮社の特設サイトより) ※画像クリックで拡大します。

主人公は、幼なじみにして、同期の警察キャリアである、竜崎伸也と伊丹俊太郎の二人。

キャリアが登場する警察小説は他にもありますが、キャリアは基本的にエリートですから、小説でも、「高慢ちきで嫌なヤツ」として描かれることが多いと思います。

実際のキャリアがどういった人たちなのかわかりませんが、経験則にイメージ的なものも加わり、個人的にはキャリアという人種は好きではありません。(キャリア崩れの新宿鮫は別ですが。)

主人公の竜崎は、東大出身のエリートキャリアで、当然のように、「嫌なヤツ」として描かれています。多くの読者は、またいつものパターンだなと思い、読み始めるとごく自然に竜崎に嫌悪感を抱くと思います。

しかし、読み進めると、いつものキャリア像とは少し違うことが分かってきます。

良くあるのが、「キャリアなのに実はいいヤツだった」というパターンですが、この作品は、それとも違い、「エリート面した嫌なヤツだけど、エリートであることに徹底している」という感じで、ちょっと見たことがないキャラクターでした。

一方、伊丹はというと、キャリアとはいえ東大卒ではなく、現場も軽視しない、一見いい人風に描かれています。しかし、竜崎より伊丹の方が「いい人」に見えて、その実、本音と建前を使い分け、柔軟に対応しながら、官僚社会の階段を上がって行く人物として設定されています。

かと言って、伊丹が正義感を持っていないわけでもなく、良い意味でも悪い意味でも臨機応変という感じなのですが、位置づけとしては、自分の信念、原理原則を頑なに守る竜崎のキャラと対照的なキャラとして描かれています。

そんな、「嫌なヤツだけど、信念は曲げない。一本筋は通っている」というキャラである竜崎の考え方がわかる部分を引用すると、

:「あなただって国民の一人なんですからね。」

:「我々国家公務員は普通の国民じゃない。」

:「エリートだと言いたいのでしょう。」

:「そうだよ。選ばれた人間だ。国をつつがなく運営して、守っていく義務を背負っている。だから、いざという時は、真っ先に死ぬ覚悟をしている。」

:「いざという時って、何です?」

:「国家の危機だ。戦国時代を考えてみろ。あの時代は武将が政治家であり官僚だった。農民はなぜ年貢を納めたのか。それは、武将が守ってくれると信じていたからだ。」

竜崎は本当にそう思っていた。彼にはエリート意識がある。エリートには特権とともに当然大きな義務もつきまとう。本気でそう考えているのだが、それがなかなかまわりに理解されない。


周りの評価をそのまま受け入れ、「ああ、そうだよ。だが、それがどうした。こっちは、覚悟を決めてやっているんだ。何か文句があるか!」という、ある意味開き直りとも受け取れる、すごい信念だと思います。

しかし、そんな竜崎にしても、天下りも当然の権利だと思っていたり、やはりエリートはエリートだと思わせる部分もあり、「こんなキャリアが本当にいたらいいのに。」というような、ヒーロー像にはなり得ないのです。

「こんなキャリアがいたとしても、世間から見れば当然のことなのに、それを一々信念とか言わないと実行できないんだから、やっぱり官僚機構なんてろくなもんじゃないな。」と、小馬鹿にしつつ、

「まっ、そこまで言うなら、その覚悟がどの程度のものか、見せて貰おうじゃないの。」という感じで、こちらも、半分応援、半分失敗を期待するといった、変な感情移入をしてしまいました。

−−−−−

シリーズものの第一回は、登場人物のキャラ説明等、少し退屈な部分があるものですが、本作は、敢えて事件自体はシンプルにして、早い進行に沿って、自然とキャラの性格が掴めるようにしているようです。

ただ、シンプルではあるものの、仕事と家庭の問題を並べることで、「竜崎はどうするのだろう?」という読者の思いを駆り立て、その推進力だけで押し切ってしまったという印象です。

ネタバレになるようなことは書けないので、わかりにくいかもしれませんが、論より証拠、読めば、竜崎、伊丹のキャラを理解できるし、自己の想像力が構築するイメージもバッチリ決まるでしょう。



TVドラマはどうせまた、しょうもないキャストだろうと思ったのですが、読み終わってから一応確認してみたところ、わりと自分のイメージに近い感じで、悪くないと思いました。特に、竜崎は良いと思います。

伊丹役の古田新太は、舞台俳優のくせに、TVのバラエティーでも良く見かけるので、好きではありませんが、まあまあといったところでしょうか。

まっ、どっちにしても観ませんけどね。

また、今回のドラマ化より前に、スペシャルドラマとして制作されたことがあるのがわかり、そのキャストを調べてみると…

「アホかっ!」というキャストでした。

今回の方が、数倍マシだと思います。

−−−−−

※2015/1/4追記

古田新太は2014の1年間で、バラエティーやCMに出まくりでした。

特にダイワハウスのCMや、年末のNHKの2夜に渡る番組は最低でした。あのような番組は、俳優自体の品位を下げるだけでなく、今後出演する作品の品位も下げると思います。舞台だけでは食っていけないのかもしれませんが、もう少し、仕事を選んだ方が良いと思います。古田新太、完全に終わっていますね。


−−−−−−−−−−−−−−−





文庫(左)、単行本(右)ともに、同じ建物が描かれています。

多分、警察のビルだろうと思って検索したところ、やはりそうでした。上の写真で、奥のビルが警察庁の入っている「中央合同庁舎第2号館」で、手前に並び建つのが、「警視庁本庁舎」のようです。

主人公の二人が、「隠蔽捜査」では、この両機構に属していることから、こうなったものと思われますが、あまり面白みのある表紙ではないと思います。可もなく不可もなしというところですね。


印象に残った言葉

「おまえの言うことは正論だ。だが、世の中は正論が通用するとは限らないんだ。」

「そういう言い方に、俺はいつも苛立つ。正論が通用しないのなら、世の中の方が間違っているんだ。」

「間違っているかどうかは問題じゃない。事実、世の中というものはそういうもんなんだ。」


−−−−−

竜崎と伊丹の会話です。

どちらがどちらのセリフを言っているかは、キャラ設定からも明らかですが、ここで私が言いたいのは、私は「正論」という言葉が嫌いだということです。

いわゆる「正論」という言葉が持ち出される時、ほとんどの場合、「それは正論だ…しかし」という否定的な意味で使われます。

「正論」という、いかにも正しそうな響きなのに、何故か肯定的に使われることのない言葉。一体、「正論」って何なのでしょうか?

以前、そう思って考えたことがありますが、その結果、

正論とは、「正しい論」ではなく、「(正しいように見えて)正しくない論」のことである。

という結論に至りました。

「正論」は「理想論」と置き換えることができると思いますが、つまりは、「現実には即していない」ということで、平たく言えば、相手は、「お前の言ってることは正しくない。」と言っているんですね。

「オマエの気持ちもわかる」と思わせ、相手に「正しい」と言われているような錯覚を起こさせるトリックなわけで、そういう紛らわしい言い方をせず、自分の正しいと思うことを、正々堂々と言えばいいのに、何とも嫌らしい言葉だと思います。

そう思う私は、「正論」という言葉は使いませんが、言われた時には、「じゃあ、お前は、オレの言うことが正しいと認めるんだな。」と切り返します。

「正論」という言葉を使った以上、相手は認めざるを得ませんから、「じゃあ、何で正しいことができないのか。」と言えばいいわけです。

「正論が通用しないのなら、世の中の方が間違っているんだ。」

竜崎の言葉は、一見すると、わかったような気がしますが、そもそも「正論=間違った考え」なのですから、「正論」という言葉を自分が使ってしまっては相手の思うツボです。

ですから、私だったら先に書いたように、相手に「正しいこと」だと認めさせてから、

正しいことが通用しないのなら、それは世の中の方が間違っているんだ。」

と言うのにと思いました。

「ふっ、東大卒のくせに、甘いな。」

毎度毎度の理屈っぽい話ですみません。私の方が竜崎よりよっぽど屈折した思考の「変人」です。



※ブログ内の関連記事(今野敏)

今野敏 / 著作リスト

(ブックレビュー / 隠蔽捜査シリーズ)
隠蔽捜査

※関連サイト

ざ・今野敏 わあるど / 今野敏公式サイト
今野敏「隠蔽捜査」シリーズ|新潮社
月曜ミステリーシアター『隠蔽捜査』|TBSテレビ


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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
お久しぶりです。数日前に再開されていることに気づいていたのですが、なかなかコメントする時間が無くて・・。
相変わらず濃い内容の書評ですね。
このシリーズ、意外と未読だったんですね。私はこのシリーズ大好きで「お、良いね〜こういうキャリア官僚!」と手放しで喜んでしまったのですが、なるほど、こういう考えもあるか・・と、今改めて深く考えています。
テレビドラマ化って本当に苦手です。今回のキャスト、私は好きじゃないです。前回の単発ドラマのときも嫌いでしたけど。じゃあ、誰が良いのか?と言われると難しいんですけどね。だから映像にしてほしくないんです。

久々にお邪魔して長々と取りとめのないことを書いてしまいました。相変わらず思いをまとめるのが苦手です。こんな私ですがこれからもお願いします。
DONA
2014/01/25 10:39
★>DONAさん
お久しぶりです。コメントありがとうございます。

「隠蔽捜査」、早く読みたいとずっと思っていたのですが、幸か不幸か、ドラマ化ということで読むことができました。文字通り一気読みでした。面白かったです。

どうせまた「キャリアだけどいい人」だろうと思っていたのですが、「嫌なやつだけどいい人かも」という斜めの方向へ振るという荒技はとても新鮮で、グイグイ引き込まれました。でも途中で、「これって、本来こうあるべきで、今の世の中がそうじゃないからこそ成立する設定なんだよな」と思ってからは、記事に書いたように、「半分応援、半分アンチ」で読みました。まあ、竜崎をヒーロー視して読むのが普通だと思います。私はひねくれ者ですから…。

でも、今回は最後まで公私ともども信念を貫いて、なかなかやるじゃんという感じです。私もけっこう曲がったことが嫌いで衝突を繰り返してきましたが、ここまで徹底できるかというと、負けた感もあるのですが、素直に認めたくない、何と言うかライバル視しているのかもしれません。

映像化、私も好きじゃありません。特に、アイドルやお笑い芸人がキャストされると、宣伝がハンパなくて、イメージを暴力的に刷り込まれるのが嫌でたまりません。今回のような、わりとまともな俳優の場合は、イメージが違っていたとしても、まあ許せるかなと思いますが、どっちにしても自分では見ません。そっとしておいて欲しい。
北旅@管理人
URL
2014/01/25 13:21

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