羊をめぐる冒険 (村上春樹)



満足度3.5 ★★★☆

講談社文庫
初出版 1982年
読んだ回数 2回


講談社文庫-裏表紙の紹介文

あなたのことは今でも好きよ、という言葉を残して妻が出て行った。その後、広告コピーの仕事を通して、耳専門のモデルをしている二十一歳の女性が新しいガールフレンドとなった。北海道に渡ったらしい〈鼠〉の手紙から、ある日、羊をめぐる冒険が始まる。新しい文学の扉をひらいた村上春樹の代表作長編。(上巻)

美しい耳の彼女と共に、星型の斑紋を背中に持っているという一頭のヒツジと〈鼠〉の行方を追って、北海道奥地の牧場にたどりついた僕を、恐ろしい事実が待ち受けていた。1982年秋、僕たちの旅は終わる。すべてを失った僕の、ラスト・アドベンチャー。
村上春樹の青春三部作完結編。(下巻)


感想、みたいなもの

「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」に続く、「僕と鼠の青春三部作」の完結編。

完結編とは言うものの、実際には続編の「ダンス・ダンス・ダンス」があるので、四部作になると思いますが、通常、三部作と言われているようなので、そうしておきます。

さて、今では村上春樹も普通に読みますが、それまで村上春樹を敬遠していた私が、村上作品を読むきっかけとなったのが本作でした。

私は、世の中の流行りものが嫌いという「ひねくれ者」なので、今、巷で話題になっている本は、まず読みません。

「流行りモノというだけで、とりあえず毛嫌いしておく」というのが私のスタンスなので(何故そうしているか、自分なりの理由がありますが、ここには書きません。)村上春樹もその例外ではありませんでした。

そんな私ですが、ある時、「羊をめぐる冒険」の舞台が北海道だと知り、北海道が好きで、他のどんなルールよりも北海道が優先される私なので、初めて読んでみようと思ったのです。

そうして書店で手に取った「羊をめぐる冒険」ですが、帯文を見ると、どうやら「三部作の完結編」らしい。

私は、「順番があるものは、(特に理由がないのなら)順番に進めるべき」とも思っているので、一人の作家の作品を「デビュー作から順番に」読むことが多いのですが、三部作ならば、当然、第一作から読むべきと考えます。

しかも、第一作の「風の歌を聴け」が村上春樹のデビュー作とあれば、読まないわけには行きません。

ということで、第一作から順番に読んだのですが、結論から言うと、三作とも「僕と鼠」の二人が登場するというだけで、特に前作を読まないと話が見えないとか、そういう類の作品ではありませんでした。

簡単に言えば、

1.ある街で一緒にビールを飲む友人だった「僕と鼠」の話
2.「僕」は上京し、地元に残った「鼠」も、やがて地元を離れる
3.「鼠」が北海道にいるらしいので、「僕」が探しに行く

というだけで、もちろん最初から読んだ方が良いとは思いますが、どっちにしたって村上春樹の作品は「何が言いたいのか良くわからない」のですから、大した問題ではないのです。

-----

物語は、広告に使った写真に写っている羊をめぐり、「僕」とその彼女が、謎の羊を探しに北海道へ行くのですが、上巻が前振りで、下巻から北海道を旅することになります。

例によって本作も、作者の意図したもの以上に、読者が勝手に迷宮を彷徨い、「羊をめぐる解釈の冒険」を余儀なくされるわけですが、まあ、三部作の中では、最もストーリーらしいストーリーがある作品なので、結局、「何が言いたいのか良く分からない」としても、「何を読まされたのかすら、分からなくなる」という率は低いのではないかと思います。

謎かけ問答のような作者の文体は、この作品に限った事ではありませんが、本作では、

象徴的な夢があり、そんな夢が象徴する現実がある。あるいは象徴的な現実があり、そんな現実が象徴する夢がある。

とか、

我々は長い間いつも、非現実的な迷惑をかけあってきたんです。
それを現実的に処理するかどうかというのは、また別の問題です。


というように、反対の言葉の繰り返しのような例えが多く、何だか、読んでいてイラつくことが多かったような気がします。

そんなわけで、初めて読んだ時は、わりと面白かった記憶があるのですが、再読の今回は、初回ほどは楽しめませんでした。

おそらく、「これは何を意味するのか」と、勝手にアレコレ考えさせられてしまう「村上マジック」に慣れてきて、深く追求しようとする気が薄れ、少し鬱陶しくなってきたのかもしれません。

つまりは、いつも書いているように、村上春樹の作品は、「その人が、どれだけ病んでいるかを測るリトマス試験紙のようなもの」という私の「解釈」からすれば、最近の私は、やや回復傾向にあるのかもしれません。

---------------

さて、「僕」が「鼠」を探しに行った場所は、「十二滝町」という北海道の架空の町として描かれていますが、実際に、どのあたりを想定しているか、北海道好きの私としては当然、探りたくなります。

文中には、

旭川の近くで支線に乗りかえ、三時間ばかり行ったところに麓の町があった。その町から牧場までは車で三時間かかった。

といった手掛かりになる言葉がいくつか挿入されているので、調べることもできそうでしたが、そこは人気作家の村上春樹のこと、すでにコアなファンの手により、解明されていました。

※ 『「羊をめぐる冒険」をめぐる冒険』をしたい方はこちらのサイトをどうぞ。

●村上春樹の「羊をめぐる冒険」を歩く -東京編-
●村上春樹の「羊をめぐる冒険」を歩く -北海道編-


このサイトによると、鼠の牧場の場所は、現在の「美深町仁宇布(びふかちょう にうぷ)」とのことですが、



道内の位置としては、このあたりになります。



名寄の北ですが、旭川から行く途中にある「士別(しべつ)市」は、羊の町として有名で、



「めん羊牧場」では、世界各地の珍しいめん羊を30種類ほど飼育し、羊の放牧や飼育風景を見ることができ、また、めん羊に関する資料の展示をおこなっています。

「十二滝町」の牧場にいる羊は、

町には現在二百頭あまりの緬羊がおりまして、全部サフォークです。つまり食用肉ですね。

ということですが、サフォークとはこんな羊で、



サフォークはどこかしら奇妙な雰囲気のある羊だ。何もかもが黒く、体毛だけが白い。耳は大きく、それが蛾の羽のように真横に突き出している。暗闇に光る青い目と長い鼻梁には、どことなく異国的な趣があった。

と、文中で説明されています。

-----

さて、本作では、日本における「めん羊」の歴史についても詳しく記述されていますが、北海道以外に住む方には、羊はあまり馴染みのない動物だと思います。

まあ、北海道でも、どこでも「見られるということはないのですが、それでも、札幌に住んでいた頃を思い返してみると、羊はわりと身近な動物だったように思います。



札幌の観光地のひとつに、その名も「羊ヶ丘展望台」がありますが、ここは、年間パスポートを持っていたくらい好きな場所で、何度も訪れたことがあります。



何と言っても「クラーク博士」の銅像があることで有名ですが、



周囲の牧草地帯では羊がのんびりと草を食べるという、のどかな、いわゆる「牧歌的風景」が楽しめます。



ここにいる羊は、先ほどの「サフォーク種」とは違いますが、敷地内には、ジンギスカンを食べることができる「羊ヶ丘レストハウス」があります。



ここのジンギスカンは、とても美味しいのでオススメですが、特に、ここの「秘伝のタレ」は個人的にかなり好みの味でした。

時々、「羊を見た後で食べるのは、何となく気が進まない」といった声を聞くのですが、今では、ほとんどの羊肉は、ニュージーランドやオーストラリア産で、別に、ここで飼っている羊を食べさせられるわけではないので大丈夫?です。

羊の種類はこちらのサイトへどうぞ。

ひつじ について

---------------

本作も、文中にいつものように多くの楽曲名がちりばめられ、作品世界の雰囲気作りに一役買っています。

知っている曲なら、頭の中でメロディを聴きながら読めますが、村上作品にはジャズやクラシックなど、古い曲が多いので、それが難しいのです。

「風の歌を聴け」では、読後に自分で調べましたが、「村上春樹 音楽大全集」というサイトがあるのを見つけたので、今回もリンクで楽をさせてもらいます。

「羊をめぐる冒険」は、登場曲数がかなり多いのですが、残念ながら、本作も通勤中に読んだので、「曲を聴きながら読む」ことはできませんでした。

次からは、村上作品は家で読むことにして、実際に「曲を聴きながら読む」と、どんな感じになるか試してみたいと思います。

それでは、数ある登場曲の中から、私の好きな、ボズ・スキャッグスの曲を。

僕は黙ってビールを飲んだ。天井のスピーカーからボズ・スキャッグスの新しいヒット・ソングが流れていた。

四年振りに街に帰り、ジェイズ・バーへ寄った「僕」。

文中の記述に1978年の6月とあるので、1977年のアルバム「ダウン・トゥ・ゼン・レフト」からのシングル・カットだとすれば、「Hard Times」か「Hollywood」でしょうか?





---------------





文庫表紙は、現在(上)は「オリジナルカバーの新装版」で、単行本と同じ表紙になっています。

最初出た時(下)は、色違いだったようですが、「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」の、「斜めに傾ける(戻す)パターン」とは少し違いますが、3作に共通なのは、「図柄は一緒で色彩を薄くする」というものです。

本の表紙はタイトルと並び、内容以外の大切な要素だと思いますし、私自身、好みの表紙だと「表紙買い」することもありますが、意味のない変更や手抜き表紙なら、無理して単行本と違う表紙にすることもないのにと思います。


印象に残った言葉

「やれやれ」と僕は言った。やれやれという言葉はだんだん僕の口癖のようになりつつある。

-----

作品中、「僕」は何度も、「やれやれ」という言葉を口にします。

この言葉は村上春樹の作品には頻出語らしいのですが、まさに、「村上ワールド」を象徴する言葉かもしれません。

というのも、

しかしまあ、これはどうでもいいことだ。ドーナツの穴と同じことだ。ドーナツの穴を空白として捉えるか、あるいは存在として捉えるかは、あくまでも形而上的な問題であって、それでドーナツの味が少しなりとも変わるわけではないのだ。

読者は、毎回、このような、分かったような分からないような言葉の洪水を浴びせられ、まったく、読者の方こそ「やれやれ」と言いたくなるのですが、この「やれやれ」は、英語では「boy」と訳されているとのことです。

例えば、上記の文章は、

Boy, I said.Saying 'Boy' is gradually becoming a habit of mine.

となるそうです。

boyというのは、

間投詞として、「驚き・失望・困惑・感嘆」を表し、「まあ、おやおや、おやまあ、わーい、やれやれ」

といった風に使われるとのことですが、何だかピンと来ません。

そう思った時、私の脳裏をある言葉がよぎりました。

レイモンド・チャンドラーの「大いなる眠り」の「印象に残った言葉」で書いた「うふう」。

「uh-huh」を「うふう」と記したのは、まあ、当時、適した訳語が見つからなかったという、苦肉の策ならぬ苦肉の訳ですが、妙に味のある訳だなと思ったものです。

チャンドラーを(多分)尊敬している村上春樹ですから、これを使わない手はないでしょう。

ということで、

Uh-huh(うふう), I said.Saying 'uh-huh(うふう)' is gradually becoming a habit of mine.

やれやれ…。



※ブログ内の関連記事(村上春樹)

村上春樹 / 著作リスト

(ブックレビュー / 僕と鼠の青春三部作)
風の歌を聴け
1973年のピンボール
羊をめぐる冒険

(その他長編)
ノルウェイの森
1Q84 BOOK1 〈4月-6月〉

(村上春樹訳)
さよなら、愛しい人

※関連サイト

村上春樹 音楽大全集
羊をめぐる冒険(上) - 村上春樹 音楽大全集
羊をめぐる冒険(下) - 村上春樹 音楽大全集

東京紅團(東京紅団)
村上春樹の「羊をめぐる冒険」を歩く -東京編-
村上春樹の「羊をめぐる冒険」を歩く -北海道編-

さっぽろ羊ヶ丘展望台オフィシャルサイト


※ブログランキング(本・読書)に登録しています。
画像:人気blogランキング(本・読書)へ
↑↑読書ライフの参考になりましたら、応援のクリックをお願いします。


↓↓本の購入・ブックレビュー(amazon)はこちらへ
 

この記事へのコメント