流れる砂 (東 直己)


満足度5 ★★★★★

ハルキ文庫
初出版 1999年
読んだ回数 2回








ハルキ文庫-裏表紙の紹介文

私立探偵・畝原の受けた依頼は、些細なマンションの苦情だった。女子高生を部屋へ連れ込む区役所職員の調査の中で畝原は彼の父親が、口を封じるように息子を殺して心中する現場に遭遇してしまう。だがそれは、札幌を揺るがす事件の序章に過ぎなかった……。翌日、行方不明の娘を持つ女性の素行調査を依頼された畝原は、殺された職員との恐るべき関係を掴むが――。関係者が殺される中、畝原は、巨大な闇の真相に辿りつけるのか!? 傑作長編ハードボイルド。


感想、みたいなもの

探偵・畝原(うねはら)シリーズ第二弾。

今回の事件は、援助交際、新興宗教、保険金詐欺、役所の不正といった社会問題がテンコ盛りで、それらが複雑に絡み合い、やがて一つにまとまるという、ミステリー作品にありがちなパターンですが、600ページを超える大作にもかかわらず、一気に読める面白さでした。

「畝原シリーズ」は、同じ作者の「俺シリーズ」に比べ、かなり大きな社会悪に行きつくケースが多いのですが、それは、「俺」が探偵ではなく、あくまでも便利屋なのに対して、畝原は探偵なので、対象の事件が違うということがあるのだと思います。

東直己は、かつて連載していた寿郎社のコラム(今は見ることができません。)でも、社会のバカさ加減に言及し、口汚く罵るような文章を書いていたのですが、とにかく、世の中に対して一言あるタイプの人なので、畝原シリーズの方が、作者の言いたいことが、本音としてがストレートに伝わってくるような気がします。

ただ、作を重ねるうち、私には、主張が段々と客観性を欠いていくと感じられるのですが、この作品は、主張の正当性を感じられ、作者に共感できる作品だと思います。

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このように、畝原シリーズは社会派ミステリー系なので、読んでいて、やや重苦しくなる時がありますが、本作では、小学校六年生になった、畝原の娘「冴香」のかわいらしい言動が、ホッとなごませてくれます。

本シリーズは、ある意味、父と娘の物語でもあるのですが、本作が、冴香の最も子供らしくてかわいい時期だと思います。私には子供はいませんが、この時期の子供の気持ちがうまく描かれているように思いました。

冴香以外にも、「畝原シリーズ」には登場人物に個性派が揃っていますが、本作では、畝原の高校時代の同級生で、調査警備を請け負う探偵会社社長の横山と、新聞記者時代の先輩で、現在は消費者生活センター所長の山岸芳枝の二人が主役級の活躍をします。

まず、横山ですが、

私は北海道日報を解雇され、生活の手段を求めて、高校の時の同級生だった横山という男の、調査警備の会社に就職した。

とあるように、横山は、窮地に陥った旧友に救いの手を差し伸べ、現在の探偵としての基盤を作らせたと言う意味で、畝原の恩人の一人です。

容貌についての記述が見つからないのですが、



私の脳内のイメージは、ズバリ、横山やすし。

「横山」繋がりという安易さはさて置き、調査警備会社の社長として、自由奔放で豪快な仕事ぶりを見せつつ、その実、人情的な面も持ち合わせている感じが、横山やすしのイメージに何となくシンクロするのです。



また、横山と畝原の二人は高校時代の友人ということで、お互いを知り尽くしていることから、その会話は息がピッタリ、というか、掛け合い漫才のような面白さがあり、「やすきよ」を彷彿とさせるものがあるのです。



畝原は、特に「西川きよし」のイメージがあるというわけではありませんが、第一作の表紙に描かれた顔から、「四角い顔」のイメージがあるので、まあいいかなと。

次に、消費者生活センター所長で、悪徳商法との対決に力を注いでいる「山岸芳枝」ですが、「口が悪くて女傑系」ということから、私がイメージしたのは、



第一に浅香光代。



次に渡辺えり子。



ちょっとひねって「あき竹城」の三人でした。

しかし、文中で、

口調と言葉はまるで男だが、女傑山岸は、見た目はとてもたおやかな、優しそうなおばあちゃん、という雰囲気だ。

ほっそりとした、まぁ、しわくちゃの顔には、今も丁寧に化粧が施されている。束髪は綺麗な純白で、富士額の生え際がすっきりしている。眼鏡の向こうに、活き活きとして、いつも笑っているような瞳が元気だ。

この外貌と、しゃべる言葉のちぐはぐさに、いきなりカウンター・パンチの不意打ちを喰らい、浮足立ったまま粉砕された悪徳業者は数多い。


と、描写されているのを読み、軌道修正。

頭に浮かんだのが、かなり古いですが、



市川房江!!

ピッタリだと思います。

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本作では、SBC札幌放送という、架空のテレビ局が登場します。

札幌に引っ越した10年前、テレビのチャンネルが、札幌と東京では全然違っていて困ったことがあります。

東京のCH番号・局名→札幌のCH番号・局名→札幌のデジタルCH番号

1  NHK総合   → 3  NHK総合 → 3
3  NHK教育  → 12  NHK教育 → 2
4  日本テレビ → 5  STV 札幌テレビ → 5
6  TBS     → 1  HBC 北海道放送 → 1
8  フジテレビ → 27  UHB 北海道文化放送 → 8
10 テレビ朝日 → 35 HTB 北海道テレビ → 6
12 テレビ東京 → 17 TVh テレビ北海道 → 7

これが、東京と札幌のチャンネル関係の一覧ですが、まず驚いたのがNHKが1チャンネルではないことでした。

もちろん私も、各地でチャンネル番号が異なることは知っていましたが、NHKだけは全国共通で「1」だと思っていたのです。

何と言ってもNHKは、実質、国営放送なのだから、最初の番号を付与するべきだし、特に災害時など、全国どこに居てもチャンネルがわかるようにする方が良いと思うので、今でも、NHKは全国共通で「1」にするべきだと思っています。

※最近では、NHKもクソ民放と同レベルになっているので、この主張も、やや説得力に欠けるようになってきたかもしれませんが…。

札幌での生活に話を戻すと、私はテレビが嫌いなので、そんなにテレビは見ないのですが、時々、見たい番組があった場合、それがTBSの番組だと覚えていたとしても、TBSが北海道のどの局に該当するかでまず躓きました。

上記一覧のように、民放局は、STV、HBC、UHB、HTB、TVhと、アルファベット3文字で表されますが。H、B、Tがやたら多くて、チンプンカンプン。結局、8年間住んで、最後まで覚えられませんでした。

本作に登場するSBCは「札幌放送」ということですが、いかにも実在しそうなネーミングです。

文中で、

「大通西八丁目。SBCからの帰りだ。」

大通公園の外れにあるSBCの周りも、混み合っていた。


という記述があるので、大通西8丁目にあるSTVをイメージしているのかもしれませんが、架空の7つ目の局かもしれません。

なお、いつものように、文中には札幌の具体的な地名が記述されていますが、

「札幌市清岡」というのは「清田区」(平岡がある)のことで、

「札幌市白郷」というのは、「白石区」(南郷通がある)のことだと思います。

何故、この二つをズバリの地名にしなかったのか謎ですが、不正がらみの部分に関連し、気を遣ったのでしょうか?

しかし、東直己という人は、そんなことに気を遣う人ではないので、出版社が校正段階で変更したのだと推測しておきます。

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表紙は、文庫(左)、単行本(右)ともに、夜景のネオンをバックにタイトル文字を置いたものですが、面白みに欠けると同時に、本書の内容とも異なるような気がします。

元々、ハルキ文庫の表紙には良いモノがなく、どれも単調なモノばかりなので、まあ、こんなものかもしれません。


印象に残った言葉

「昔っから、老人は、『昔は良かった』とか『今時の若いもんは』なんてことを言い続けて来た。それは知ってるさ。でもね、それにしても、なんか最近は違うんじゃないか? どっか、おかしくなってないか?」

「そんな感じはしますけど……。」

「子供を作らなくて、本当に幸せだった、私は。これからおそらく来るであろう社会に、自分の子供や孫が生きていかなけりゃならない、なんて思ったら、夜もおちおち眠れないよ。」

「…………。」

「グズグズの、だらしない、締りのない、努力も向上も価値も持たない、そんな社会になるんだと思うよ。あたしは、そう思う。」

「……私は、そうは思いません。そう思うわけにはいかないんです。冴香はとにかく生きているんですから。そして、私が死んだ後も、彼女は、自分の人生を生きて行くわけですから。だから、今よりも少しでもいい社会、あるいは、少なくともそんなに悪くない社会が続く、と思います。思っています。」

「信仰だな。」


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山岸と畝原の会話です。

山岸の「子供を作らなくて良かった。」という気持ち、全く同感です。実際に、そういう思いは、若い頃から私の中にありました。

先に書いたように、東直己は人一倍、「社会のバカさ加減」に憤りを感じている人ですから、山岸に言わせたことが本音であることは間違いないでしょう。

畝原も、心の中ではそう思っているのだと思いますが、冴香がいるから認めるわけにはいかないと、必死に戦っているわけです。

この本が書かれたのは1999年ですが、山岸の予言?通り、21世紀になってから世の中は加速度的に悪くなっている気がします。

それを思うと、こういう考えが正しくないことは承知していますが、「やっぱり子供がいなくて良かった。」と思わざるを得ないのです。



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(ブックレビュー / 探偵畝原シリーズ)
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