暴雪圏 (佐々木 譲)


満足度5 ★★★★★

新潮文庫
初出版 2007年
読んだ回数 2回







新潮文庫-裏表紙の紹介文

三月末、北海道東部を強烈な吹雪が襲った。不倫関係の清算を願う主婦。組長の妻をはずみで殺してしまった強盗犯たち。義父を憎み、家出した女子高生。事務所から大金を持ち逃げした会社員。人びとの運命はやがて、自然の猛威の中で結ばれてゆく。そして、雪に鎖された地域に残された唯一の警察官・川久保篤巡査部長は、大きな決断を迫られることに。名手が描く、警察小説サスペンス。


感想、みたいなもの

道東の小さな田舎町、志茂別町の駐在として勤務する「川久保篤シリーズ」の第二弾。

厳しく長い冬が、ようやく少し緩み、春の足音が聞こえてきそうな三月。

この時期は気温も上がり、根雪も融けだすのですが、一気に春にはならず、冬が実にしぶとく最後の抵抗をして、大荒れの天気になることがあります。
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北海道では、この時期の暴雪風を「彼岸荒れ」と呼ぶのですが、まあ、春への通過儀礼というか風物詩のようなもので、私も札幌に住んでいた頃、TVのニュースで、その言葉を耳にした記憶があります。

真冬の間は水分の少ないサラサラ雪だったものが、この時期の雪は水を含む、重くベタつく雪に変わるので、ドカンと降ると交通機関への影響も大きく、特に地方では、鉄道もなく幹線道路一本が命綱ということもあり、暴雪風により、地域が孤立状態になることも珍しくありません。

本作は、彼岸荒れによって志茂別町が、「町から出ることも来ることも不可能な、自然による密室状態」になったという設定での物語です。

志茂別町は、実在の北海道の町「大樹町(たいきちょう)」をモデルにしていることは、前作「制服捜査」の感想で書きましたので、詳しくはそちらを見ていただくとして、ここでは、殺人犯たちの逃走ルートなどが分かるように、本作に記載のある具体的な地名を記した地図を載せておきます。



北海道の地名に詳しくない方が、これにより本作を読む際の手助けとなれば幸いです。

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今回の物語は、帯広で殺人を犯し逃走中の犯人を始め、不倫関係にある男女、家出した女子高生、会社の金を横領しようとする会社員など、それぞれの個人的な事情を持つ男女の物語が、まず、オムニバスのように語られます。

最終的に彼らは、暴雪風から避難すべく、あるペンションで一堂に会することになるのですが、それぞれの人間模様が交錯し、当初の予定、思惑とは違う結末を迎えることになります。

それが果たして、偶然の悪戯なのか、あるいは必然なのか、それぞれの結末が味わい深い内容の、秀逸な作品に仕上がっていると思いました。

また、町で唯一の警官となり、孤立無援で奮闘する川久保の責任感や、それを助ける町民とのふれあいなど、読みごたえも充分で、短編集だった「制服捜査」とはまた違った面白さでした。

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北海道を車で走ると、沿道に続く、写真のような赤白の矢印を目にすることと思います。



これは、「固定式視線誘導柱」と呼ばれるもので、冬の北海道を運転するドライバーにはなくてはならないものです。

雪国では、冬の間は積雪により、車道と歩道の区別がつかなくなります。



風雪により視界が悪い中を走る場合、対向車との接触を避け、どうしても左寄りに走りたくなるものですが、左に寄り過ぎると、車道と歩道の段差に乗り上げたり、



場合によっては、即、転落だったりするので、ここが車道と歩道の境界ですよ」ということをドライバーに知らせるために設置されています。

これは、安全な雪道走行(←そんなもの、実際にはないんだけれど…。)、特に夜間の雪道走行に欠かせないものですが、本作のような暴雪風の場合、矢印(夜は点滅する)も見えなくなり、道を外れて吹きだまりに突っ込む危険性が高くなるわけです。

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「防雪柵に隙間があるから、そこに風が吹き込んで、とんでもない吹き溜まりができるんです。」

次に本作の中でも語られる「防雪柵」ですが、地方は建物が少なく、風が道路上を強く吹き抜けるため、吹雪対策として道路脇に「防雪柵」が設けられています。(間違えて「暴雪柵」と書いてあるサイトもありますが、あながち間違いとも言えない気が…。)

これは雪国でなくても、風の強い地方には「防風柵」として設置されているようですが、北海道では、「固定式視線誘導柱」と同様に、道内いたる所で見ることができます。



この二つは、もちろん夏でもそのままですが、



「防雪柵」の方は、折りたたむことができます。

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さて、ラストシーンの舞台となる志茂別町の町道ですが、北海道では、国道ではなく、道道(どうどう)や町道でも、道幅の広い、立派な道路が普通に存在しています。

本書にあるように、地域の住民の重要度から、町道の方が除雪が素早いということもあるわけです。

道の左右は、夏にはビートか穀類の畑になるはずである。いまは真っ平らの雪原だ。この町道の幅員は六メートルほどで、国道の向こう側には防風林が見えるが、この町道の左右には、ろくに木立ちもなかった。

という文中の描写から、



こんな感じだと思います。

本書を読む時、冬の北海道を知らない方には想像ができない思って、ちょっと解説してみました。

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表紙は、「制服捜査」と同じく、浅野隆弘氏によるもの。(単行本は、多分、ですが…。)

「制服捜査」が、文庫と単行本で同じような図柄だったのが、今回は、文庫(左)が、暴雪が吹き荒れる夜、一人、警邏する川久保巡査部長の姿なのに対し、単行本(右)は、雪で視界が悪く、前方の車のテールライトが赤くかすんで見える光景です。



最初、単行本の表紙は何を描いたものか良く分かりませんでしたが、拡大してみたところ、前を走る車だとわかりました。

北海道に住んで最初の冬、実際に、道東で、強風と吹雪の中を走ったことがありますが、本書を読み、あの時の光景が鮮やかに蘇りました。

徐々に雪が強くなり、視界が悪い状態で運転するのは恐ろしかったですが、郊外へでると風がまともに吹きつけてくるので、本気で車が流されそうになり、自然とハンドルを握る手に力が入ります。

手に汗握り走っている内に、前方の車のテールランプはかすかに見えるだけで、そのうち、まるで何も見えなくなりました。いわゆる「ホワイトアウト」状態です。

前の車に追突するかもしれない状況で、これは危ないと思って停車し、ハザードランプを点滅させたのですが、良く考えたら、後ろから来る車には見えないだろうから、今度は追突される恐れがあり、止まっているのも危険だと気が付きました。

ゆっくり走っているのが一番マシかと思い、その地点から近い方の市街地へ戻ることにして走りだしましたが、市街地の明かりが見えだしたときは本当にホッとしたことを覚えています。

あの時、目的地に無理に行こうとしていたら、かなりヤバイ状況になったかもしれません。

それがトラウマになり、その後、冬の車での遠出は一度もしないまま東京に戻ってきましたが、多分、あの吹雪の道の恐怖は、実際に走ってみないと想像できないのではないかと思います。


印象に残った言葉

支給されている制式拳銃はS&W-M37エアウェイトというタイプだ。
装弾数は五。重心は二インチだから、少し距離があれば命中させることは難しくなる。


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ここを読んで「あれっ?」と思いました。

そう、日本の警察が使用する拳銃は、大沢在昌の「新宿鮫シリーズ」でお馴染みの、国産拳銃「ニューナンブM60」だと思っていたからです。

調べてみたところ、Wikipediaによれば、



「M37はM36にアルミ合金製フレームを採用して軽量化を図ったリボルバーである。現在はSIG SAUER P230やS&W M3913と共に、ニューナンブM60に代わる日本警察の制式拳銃として使用されている。」

とのことで、ニューナンブから世代交代しているんですね。

まあニューナンブにしても



「S&W社製M36リボルバーを参考に開発されたといわれ、」

とあるので、M37と似ているのも当然なのですが、拳銃に詳しくない私としては見分けがつきません。

「新宿鮫」は現在もシリーズも継続中ですが、鮫島の拳銃もS&Wに変わったのでしょうか?

新宿鮫シリーズはⅣまで再読中ですが、Ⅴ以降は注意して読んでみたいと思います。



※ブログ内の関連記事(佐々木譲)

佐々木譲 / 著作リスト

(ブックレビュー / 駐在警官・川久保篤シリーズ)
制服捜査
暴雪圏

※関連サイト

佐々木譲資料館 / 佐々木譲公式サイト
佐々木 譲『暴雪圏』刊行記念インタビュー / 立ち読み|波|新潮社

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この記事へのコメント

kino
2019年05月02日 00:33
佐々木譲さんの川久保篤シリーズを読んでいてここに来ました。
北海道の土地勘がなかったのですが、このブログで地図が掲載されていてとても助かりました。
2019年05月02日 09:54
★>kinoさん
コメントありがとうございます。

お役に立てて良かったです。
北海道から東京に戻って10年近くになりますが、時々、車で雪道を走りたくなります。白一面の世界を走るのは、結構、爽快感が味わえるのです。もちろん、大雪でなければね…。